2013/05/16

あまちゃんオープニングテーマ(ロングバージョン)/大友良英


音楽が物語るということ


 音楽それ自体がストーリーを語ったり感情を表現したりする機能があることによって、物語作品のテーマソングは「視聴者を物語へ没入させるための導線」というエンターテイメント面での役割以外にも、「物語のレジュメ」や「物語への新たな感情や視点の付加」といった、より複合的な役割を果たすことがある。

 言うまでもなく、本作はNHK朝の連続テレビ小説『あまちゃん』のテーマソングだ。先に白状しておくと、僕はドラマの内容はあまり熱心にフォローしていない。物語の骨子・全体の流れは理解している(つもりだ)が、詳細は知らない。ただ、そのドラマのテーマ・ソングである本作が、大胆にもわずか一分半という短い時間の中に、ある少女の成長譚としての“物語”とそこに生じる感情の流れを描くという役割を果たしているとしているしたら、それは僕にも分かる。

 本作は大きく分けて4つのパートから構成されている。最初のパートでは、スカのような裏拍を強調したビートに乗った弾むようなメロディが、主人公の少女の溌剌とした様子を表現すると同時に、本作へのリスナーの印象を決定づける。RPGのテーマ・ソングのような壮麗なオーケストレーションが登場する第2パートは、少女(少年も)の成長譚とは、実はそれだけで一種の冒険譚たりうるということを思い出させる。第3パートでは、そうした前2パートを引き継ぎながら東西を問わぬ様々な楽器が合奏し、賑々しい大団円を展開する。そして、最後のパートでは、第1パートと同じメロディを用いながらも数段の転調することで「始まりと同じようだが何かが確実に変わっている」という”物語”の結末を想起させつつ、穏やかに作を閉じる。

 こうした物語的な展開に花を添えるのは、最初のパートで登場する”動物の鳴き声”を模したメロディだ。動物の声を楽器音で模した音楽は沢山あるが、ここでの用法は南北戦争直後、軍楽隊の払い下げ楽器を手に街角で見世物的に演奏されていたごく初期のジャズのそれを思わせる。純粋な“賑やかし”であると同時に、コスモポリタンな感性によるポップスが世界中に跋扈する20世紀半ばより前の、大道芸的とも言えるストリート感覚を作品へ注入しようという目論見を感じる。東西の差異はあるものの、同じように道端の大道芸を主戦場としていたちゃんちきやチンドン太鼓といった楽器が用いられているのも、そういった狙いによるものだろう。

 いや、しかしこれは大友良英の近年の活動を念頭に置いてるから思いつくだけの、一種の寄り道ではある。コンポーズそのものは間違いなく前述の物語の方向を向いているし、あまちゃんの主要テーマに「ストリート=民衆からの支持や突き上げ」があるという話も、今のところ僕の耳には(目にも)入っていない。いや、アイドルをテーマにしている、という話はあるし・・・絶対につながらないってことはないかな? ドラマの今後のアクロバティックな展開に期待!

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