2013/02/20

ショートケーキ/柏木由紀

「わたし、彼のこと好きかも」の後に来る壮絶なもの



 *与えられた愛に報いようとした時、愛は「見返りを求めない無償のもの」から「応酬するもの」に変わる。

 そして本作がエモーショナルなのは、その変化の瞬間を捉えているからだ。

 ありきたりな「幼なじみパターン」の恋愛物語のヒロインが、彼に向けて告白の手紙を書いている。二人の思い出を振り返りながら「(ぶっきらぼうだけど)実は誰よりも私を助けてくれてたパターン」の愛を感じ、自らの気持ちもそれに寄せて行く。オルゴールを模したと思われるエレピを中心としたアンサンブルと角の丸いサウンドが、彼女のノスタルジックで穏やかな感情を充満させていく。

 その空気が変わるのは、2回目のコーラスが終わってから一度だけ登場するブリッジ。

  私たちのケーキに/イチゴはいくつ?
  数えながら分け合って/一緒に暮らそうよ
  もしあなたが落ち込んでいる時は/私のイチゴもあげる
  涙も分け合おう

 息を呑む。
 一つは、生暖かいノスタルジアが充満していた空間に「与えられた愛へ報いることへの決意」がサッと煌めいた、その眩しさへの単純な感動によって。
 もう一つは、(矛盾するようだが)ヴェールに包まれた刃物を突きつけられたような、ヒヤリとする感覚によって。

 *(繰り返し)
 多くの元カップルが証明するように、そのバランスを保つことは簡単ではない。そして、与えた愛が報われないと分かったとき、人は深く傷ついたりもする。だから愛の約束は実はとても恐ろしい。と同時に、その恐怖や困難と向き合う勇敢さを試されるゆえに、愛の約束はとても美しい。

 穏やかな感情とありきたりなプロットの中でも(だからこそ)愛はちゃんと煌めいている。光っているからといって善いものだとは限らないのだけど、傷つくのを恐れたら人は愛せない。どんどん傷つこう!


(フル尺のPVは無し。。。)






2013/02/13

制服のマネキン/乃木坂46


 明日はバレンタイン。自分は体調崩してそれどころではないわけですが、皆様は是非幸も不幸も楽しんでお過ごし下さい。で、明日取り上げたい曲があるので、今日はその前哨戦。
 「制服のマネキン」(以下マネキン)はリリースこそ去年(20121219日)だけど今でも普通にオリコン20位以内に登場するロングヒットなので、一応「最新ヒット」ということで。

女 <男「(欲望から解放されて、俺の)欲望に身を委ねろ」→ 女>


 冒頭15秒の開放的なメロディは「拘束と解放」というテーマを持つ楽曲において、「解放」を象徴する部分となっている。この曲が歌詞のややヘヴィな内容に負けず、楽しげなフィーリングを保っているのは、何度もリピートしたくなるような魅力のあるこのイントロに依る所が大きい。
 歌詞に目を通すと、一番では主人公である男(おそらく教師)と女子生徒(つまり彼の教え子)が恋人になるまでの期間を、二番以降では恋人になってなおじっれたい女に主人公が肉体関係を迫る様子が、それぞれ描かれている。いずれのフェーズでも決め言葉は「マネキンになるな。感情を解放しろ」である。
 マイナー調のメロディはこの二人の関係性全体に漂う不安感や背徳に対応している。間奏で表れるクラシック・ギターのソロは、機械的なエレポップのプロダクションに合わさることでその儚げな響きを強調し、(男性目線から綴られる楽曲の中で唯一)女性側の心情に対応した箇所になっている。そしてそれすらも『僕に任せろ』という男の言葉でブツリと切られてしまう。

 とここまで来て、この曲が「制服をトレードマークにしたアイドル(=乃木坂46)」によって歌われているという入れ子の構造に辿り着く。歌詞の主体は完全に男性なのに、歌うのは女性の側なのである。
 まず先に確認しておくと、実はこの構造自体はAKB48系(あるいは以降)のグループ・アイドルの楽曲ではデフォルトとなっている。これ以上は長くなるのでここには書かないが、この構造は一種の発明であり、その入れ子の構造による複雑性こそが、彼女たちの楽曲が現代的な理由の一つなのである。
 話を「マネキン」に戻す。この歌い手が女性だとしたら、こいつは何故「男性目線の、しかも男性の欲望にまみれた歌詞」を歌っているのだろうか?「男性に強要されて/自主的に」?「本気で/ゲーム的に」?など様々な解釈は考えられるが、いずれにせよやや病的かも。

 正直、音楽的にこの入れ子の構造を解釈するのは無理かも知れないと思う。彼女らの置かれた社会的・ビジネス的・芸能的ポジションを踏まえなければ読み解けないのかも知れない(実際、アートとはある程度はそういうものだ)。
 じゃあ、と踵を返すと、あの魅力的なイントロが鳴り始めるふと「そう言えば、俺も解放されたかったかも知れない(何から?)」と思う。けったいな時代だなあ・・・。

(佐藤優太)




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(全てType-Bなのは・・・ゴホゴホ)

2013/02/11

ミュージック/サカナクション


孤独が孤独に出会い、音楽が始まる


 慣れ親しんだ地元を離れて都市で生活する男。孤独感に苛まれどうしようもなくセンチメンタルになってしまっている。止むことのない淡々としたキックは男の生活がどういうものかを物語る。一方で、鳴り響くイビサ風のシンセサイザーは、男の中にある捨てきれない期待をほのめかす。孤独な心象風景と裏腹の期待感の同居する様子が、言葉数少なく綴られて行く。
 そんな中で、男は一人の女と出会う。それは別に恋なんてロマンチックなものじゃない。男にとっても、おそらく女にとっても、相手は一夜限りの関係を結ぶだけの、一時だけ孤独を忘れさせてくれるだけの存在でしかないはずだった。しかし、そうはならなかった。ふとした瞬間に、男は女の中に自分と同じ孤独を見つけてしまったのだ。
 ドラムのフィルが火花を散らすのを合図に、畳み掛けるような、あるいは溢れ出るような言葉の流れによって、男はそこに芽生えた決意を歌い始める。救われなくたって、逃れることが出来なくたって、『君が/泣いていたから』歌い続ける、と(ほとんど悟るように!)男は決めるのだ。ドラマチックな盛り上がりの中で、イビサ風のシンセは祝福の響きへ、キックは力強い鼓動の音へと、半ば正負を反転させるようにその意味を変えるのを見届けて、やや唐突に曲は終わる。

 以上のような物語に、バンドは『ミュージック』という名前をつけた。ポップ・ミュージックというのはたしかにそういうものだ。自分(だけ)ではない「誰か」のために、時には使命や覚悟すら伴って歌われる歌。その誠実で不器用な姿が時に多くの人を感動させる。「人は孤独だが、一人ではない」ということを証明することはポップ・スターの役割の一つだ。
 と同時に、主人公はまだまだ自分のことに精一杯で、相手が自分のことをどう思ってるのかを本当の意味で考える余裕は今のところない。だから、筆者にはこの両者が将来幸せになっているかはまだ分からない。少なくとも『いつだって僕らを待ってる/疲れた痛みや傷だって』『歌い続ける』覚悟はあるのだから今は十分。かな?





2013/02/10

Help Me!!/モーニング娘。

『ハイパー引き裂かれた愛 2013』

 ここで歌われているのは、好きな男に思うように相手にされず、疲れたあげくにつまらない親父ギャグを零すほど疲弊した主人公の女の子が一念発起、「お前になんか手の届かないところまで行ってやる」と決意を叩き付ける一種の成長譚である。と同時に、男=日本政府/女=国民という見立てによる比喩を通して、一種の政治的なステートメントを扱った曲とも解釈できる。
 モダン・エレクトロ譲りのヴォーカル・カットアップと歪んだベースは不機嫌な気分を強調し、イントロや間奏で聴こえるエスニックなストリングスは「(日本から)飛んで行ってしまうよ?」という脅迫に奥行きをもたらしている。(PVで舞台となっている「都市」の映像も、どこかエスニックな雰囲気があり、楽曲の世界観を強調するのに一役買っている。)曲が後半に行くにつれてバック・トラックの緊張感=不機嫌さが解消されて行く構造は、主人公が執着を振り切って行くというストーリーの展開とシンクロしている。
 不景気や少子化問題の泥沼化の影響によって、いまや「日本を脱出する」というアイデア自体は珍しいものではない。ただ、実際に実行するには、まず社会的に強くなければならないし、ホントのところどれだけリスクがあるのかも定かではない。本作の主人公も「強くある/なる」ことには希望を見いだしてはいるが、相手の男から全てのチャンスを奪ったというわけでも無さそうである。片手には(繋がる先の見えない)命綱を握りしめながら、相手の男の気を引こうと目配せしてもいる。できればこの手を強く掴んで「助けて!!」欲しいとさえ思っている。ハイパーなサウンドや今のモーニング娘。の勢いと裏腹に、ギリギリの瀬戸際でもがく姿、引き裂かれた感情も見えてくる。


2013/02/09

ブログ はじめました

2013年。インターネット上に膨大な量の'批評'が公開される昨今ではありますが、それでも自分が読みたいものがないのでブログを始めます。

ポイントは2つ。
 (1)ここでは、日本のポップス、それもヒットソングについて考える。
 (2)ここでは、主に『楽曲』について考える。
 以上。

もちろん例外は常にありえますし、自分自身もオープンな姿勢で居たいと思ってますので未来がどうなるかは分かりません。数年後には「J-POP REVIEWっていうノイズ・アヴァンギャルド専門のレビューブログがあってさ・・・」みたいな会話が交わされているかも知れません。・・・多分無いですが。

読んで楽しんで頂ければ最高です。
あと「いや全然ちげーよ。分かってねーなコイツ」という人は是非ご一報下さい。



最後に、ブログタイトルについて補足。

「日本の音楽はガラパゴス化してるんですかね?」
「YES。でも、ダーウィンの逸話を思い出して。ガラパゴス化された状況から本質的な何かを抽出することはできるし、それが世界の見方までも変えちゃうことがある。だから、ここでまず必要なのは否定でも開き直りでもなく、興味を持ち、探求すること。なんじゃない?」

2013年2月9日