2016/04/18

Cry & Fight / 三浦大知





孤独と葛藤の曲


ソロデビューから去年で10年が経ち、キャリアを振り返りつつ今後を見据えたシングルである。SeihoとUTAによるサウンドは、まるで日本人の音楽とは思えない米国スタンダードで、安室奈美恵の去年のリリースなんかに非常に近いものを感じたが、こういう音をオーバーグラウンドで男一人がアイコン的に背負う例が日本にはまだ存在しないため、J-POPにとっては異端と言えるほど新鮮な聴こえがある。少し前のチルウェイヴのような色彩の配信シングルのアートワークも、その抽象画的な質感のピンクに込められた意味合いはまるで違う。モラトリアム男子が夢想するユートピア表現としてのそれではなく、まるで武士が精神統一するかのように、ちょっとダンディーな魅力を匂わせた男がシャワーを浴びながら「俺はいったいどうすればいいんだ!」と自分に浸るアレだ。自分自身と向き合うパフォーマーとしての孤独と葛藤を、リバーブの効いた幻想的なシンセがこれでもかというくらいドラマチックに描く。しかしそのシンセも切れ味よくカット、ベースがゴリッと鳴り、乱反射する光線のようなSE、そして魂の叫び・・・。三浦はここで、己が悩み苦しむ姿をそのまま表現物として成立させた。

《正解も不正解もない この世界に今》

届く人に届けばよい時代。ダンスが出来て、歌唱力も抜群、顔面も十分。楽な道はいくらでもあっただろう。しかし彼が選んだ道は、道を悩む姿そのものの提示であった。幼くして歌の世界へ飛び込んだ彼が今、ソロ11年目にして何を思うか。極端に言えば誰も共感できないステージにいる彼が、今はただひたすらに格好いい。

荻原 梓


悠然としたムードの中で歌われるスポーティなEDM歌謡


泣くことと戦うことがほとんど同時に、あるいは同期して、ともすれば同じ意味としてある世界。前者は"挫折"、後者は"挑戦"という単語に置き換えても良い。ダンスと歌を高いレベルで両立する三浦大知は、ある意味、アスリートのようなアーティストだと言える。そんな彼が見ているのは、やはり優れたアスリートの多くが見るように、マゾヒスティックとも言えるほどストイックな水準の世界なのだろう。

イントロから聴こえる鳥の鳴き声や、中盤での水面に跳ねる水滴の音なども、そんな感覚を強調する。高い成果を上げる、そして上げ続ける。そんな大きな目標を前にすれば、一つの挫折や一つの挑戦はプロセスの一部でしかない。そんな悠然とした感覚が、この、どこまでもスポーティなEDM歌謡のムードを支えている。

トラックのプロデュースを手掛けたのはSeihoとUTAという2人。だが、その2人がどこをどのように分担したのか見当するのが無意味に思えるくらい、「Cry & Fight」の音像は一つに統合されている。終盤のブレイクで、例の変調された高音ヴォイスが歌い上げる時、それが泣き声に聞こえるだろうか。それとも歓喜の叫びに聞こえるだろうか。おそらく、その両方が区別されない領域で、三浦大知は踊り歌っているのだろう。