2013/04/04

Yin Yang/桑田佳佑


「マジメな輩だけがマジとは限らない」


 タイトルは恥ずかしさを表す感嘆句「イヤン」と、森羅万象を意味する中国古来の思想である「陰陽」を掛けたもの。だが曲を聴くと「森羅万象」を意味する陰陽よりも、陰陽と同じような字面を持つ「光陰」の方がしっくりくるような気がした。つまりこれは時間=人生と、その別れについての歌なのだ。


 曲中で主人公の男が語る人生。一言でいえばそれは「女に振り回され、酒に溺れる」という、旧きステレオタイプである。冒頭からゾンビーズの"Time Of The Season"を思わせるベースラインとオルガンの響きが、主人公の男が持つセクシーでダンディな人生観を表現する。Aメロ→Bメロサビのような、いわゆるJ-POPの定型から遠く離れ、Aの繰り返しの中にブリッジ的なBを登場させて全体を引き締める、という構成も手慣れたものだ。

 だがそのリズム&ブルースは、決してクールにキマっているというわけではない。(歌詞カードにこそ記されてないが)間奏やアウトロで聴かれる『オッパイ/イヤン』『サワッチャ/イヤン』というしょーもない間の手。あるいは、間奏でのキーボードが奏でる『ムーンライト伝説』から引用したメロディ。熟練がもたらす洗練さを拒否するかのように、楽曲の節々に彼ら流のギャグが散りばめられているのだ。


 去り逝く人の人生について語る時、それが赤の他人に近ければ近いほど、それを茶化すことは憚られる。だから本作は歌い手自身、あるいは歌い手と重なり合うような身近な存在に向けられたものなのだろう。

 もちろん茶化しているからといって、バカにすること(だけ)が目的だとは限らない。人生について考える時、恐らくは健気さへの期待から、人はついつい真面目になり過ぎてしまう。もちろん、それはそれで結構なことなのだけど、そればっかりでは人生の浅はかさやテキトーさ、不埒さは掬い切れない。浅はかさがあるからこそ、人の一生が一層に切なく、愛おしく感じられる。しょーもないギャグによって、歌声が一層にソウルフルに響くこともあるんじゃない?と投げかける、確信犯的な仕事。