2013/03/21

So Long !/AKB48

愚図愚図したモラトリアムを折り畳む、別れの作法



 彼女らの定番となっている「桜」ソングの2012年度バージョンであり、ビートルズの『ヘイ・ジュード』式の盛り上がりを持ったミドルテンポのバラードだ。

 卒業式は寂しい。頭では「一生の別れじゃない」と分かっていても、寂しさが消えることはない。それを振り切るために、人は敢えて笑ったり、明日からお互い頑張ろうと励まし合ったりする。

 本作の、しつこいくらい何度も何度も繰り返されるコーラスは、卒業の寂しさを拭い去る様子、逆説的に言えば、モラトリアムの尻尾が切れる瞬間を描いていると言える。放課後の教室や部室で、特に何をするという訳でもないのにダラダラと人が残っていて、何かが起きるのを待っているようなあの感覚へ、何度も振り返りながら別れを告げていく様子である。

 同時に、このしつこいコーラスは「長く続く友情」のかなり直接的なメタファーでもある。そう言えば自分も、ああやって無目的にその場に留まって、時間を浪費することで、コミュニティへの愛を表現したかったかも、とか言ったらさすがに大げさかな。


 本作は卒業の歌であり、別れの歌だが、悲しみや喪失といった深い傷を伴う感情を扱っているわけではない。涙の意味も、決して重いものではない。そのセンチメントは次のステップに進むための助走そのものだ。

 『別々の道/歩き出しても』という歌詞からは、ベタベタしない友情のあり方、信頼という言葉すら浮かんで来る。

 ただ、秋元康がかつてBBCのインタビューに答えたような、若い世代/新しい世代に固有の価値観やリアリティはここには無い。むしろその音楽性と同様に、超がつくほど保守的な価値観に根ざした歌詞だ。

 曲の最後に登場する『いつか私の結婚式に/絶対招待するからね』という歌詞も、相手を大切に思うからこそ出た台詞だろうが、結婚しない(できない)ことが一般化しつつある時勢を思うと、やはり主人公の保守性を強調しているように感じる。

 かつて先鋭だったはずのものが、保守派を担って行く。というグループの有り様の方が音楽そのものよりも興味深いのは否めない。うーん、ジレンマ。




(オフィシャルでは40秒のダイジェスト版のみ。因みにフル尺だと64分・・・。)