2013/03/02

PERFECT BLUE/BASE BALL BEAR


過去を愛する者よ。未来へススメ


 思いを告げる前にこの世を去ってしまった片思いの相手。本作の主人公が捕われているのは、そんな記憶の亡霊である。塞ぎ込むような青春を送った彼にとって、その存在は痛々しくも美しい思い出である。思い出せば今でも胸が疼く。どうしようもないことは分かっているのに、やっぱり会いたいと思ってしまう。

 しかし、そんな情けない男もある時気付く。時間は無情であり、放っておいてもいずれ全ての記憶は風化してしまうことを。だからこそ、真に礼節を持った態度とは、自らの選択によって過去と決別することだということを。消えてしまう前に自ら手放せ。前に進むことによってのみ、過去は美しく保たれるのだと。

 イントロから多用される半音下降のクリシェは、葛藤の最中にある男の痛々しいストーリーに甘く切ないフィーリングを注ぐ。ブリッジで見せる鮮やかなキメは、感傷にグズグズになりそうな主人公が自らを奮い立たせんとする勇敢さを表現する。柔らかくて情熱的なヴォーカルによるビッグなメロディは、主人公の揺れ動く感情の通り道を捉えようとしている。

 10年を超えるキャリアにおいて、プロフェッショナルなポップのあり方を自問し続けてきたバンドの、惚れ惚れするように鮮やかな手際。そして、同じ10年において「塞ぎ込むような青春」の守護者であり続けてきた彼らの優しい目線には、惨めにならないためにほとんどを忘却して来た筆者のような人間からしても胸が熱くなる。結実とはこういうことを指すのだろう。(湿っぽい?まあ日本の夏だからね。)




(本田翼!)

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