2013/02/10

Help Me!!/モーニング娘。

『ハイパー引き裂かれた愛 2013』

 ここで歌われているのは、好きな男に思うように相手にされず、疲れたあげくにつまらない親父ギャグを零すほど疲弊した主人公の女の子が一念発起、「お前になんか手の届かないところまで行ってやる」と決意を叩き付ける一種の成長譚である。と同時に、男=日本政府/女=国民という見立てによる比喩を通して、一種の政治的なステートメントを扱った曲とも解釈できる。
 モダン・エレクトロ譲りのヴォーカル・カットアップと歪んだベースは不機嫌な気分を強調し、イントロや間奏で聴こえるエスニックなストリングスは「(日本から)飛んで行ってしまうよ?」という脅迫に奥行きをもたらしている。(PVで舞台となっている「都市」の映像も、どこかエスニックな雰囲気があり、楽曲の世界観を強調するのに一役買っている。)曲が後半に行くにつれてバック・トラックの緊張感=不機嫌さが解消されて行く構造は、主人公が執着を振り切って行くというストーリーの展開とシンクロしている。
 不景気や少子化問題の泥沼化の影響によって、いまや「日本を脱出する」というアイデア自体は珍しいものではない。ただ、実際に実行するには、まず社会的に強くなければならないし、ホントのところどれだけリスクがあるのかも定かではない。本作の主人公も「強くある/なる」ことには希望を見いだしてはいるが、相手の男から全てのチャンスを奪ったというわけでも無さそうである。片手には(繋がる先の見えない)命綱を握りしめながら、相手の男の気を引こうと目配せしてもいる。できればこの手を強く掴んで「助けて!!」欲しいとさえ思っている。ハイパーなサウンドや今のモーニング娘。の勢いと裏腹に、ギリギリの瀬戸際でもがく姿、引き裂かれた感情も見えてくる。